近年、デジタル化の波が押し寄せる中、デジタル手続法に基づき、デジタル3原則に沿った地方公共団体の行政手続のオンライン化が推進されています。
行政手続きの効率向上・時間短縮や地域住民の利便性の向上、そして運営コスト削減などの多くの利点を踏まえ、各自治体にとって行政手続きのオンライン化は喫緊の課題です。
そこで、この記事では、政府が示すガイドラインに基づいて自治体が行政手続のオンライン化を進める方法や、デジタル改革における課題と対策を詳しく解説します。
また、自治体のオンライン化に欠かせないキーワードである、マイナンバーカードとふるさと納税ワンストップ特例制度についても取り上げます。さらに、オンライン行政手続の先進的な取り組みをおこなっている自治体の具体的な事例をご紹介しますので、参考にしてください。
記事の後半では、ふるさと納税の訴求を図る自治体のWebプロモーションを促進するサービス「まちあげ」についてご紹介します。
自治体のご担当者はこの記事を参考にして、オンライン行政手続導入のメリットやデジタル改革への取り組み方についての理解を深めましょう。
IT化が進む世界の社会経済構造の変化を受け、2001年に内閣は高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)を設置しました。
IT戦略本部によって、2016年には官民データ活用推進基本法、2019年にデジタル手続法が制定され、行政手続のオンライン利用が原則化されました。
ここからは、政府が推進する、”行政手続IT化にあたっての3原則”について解説します。
「デジタルファースト」とは、行政手続全般において、従来の紙による提出や対面での手続から、デジタルで完結する手続への移行を目指す考え方です。
これまで窓口でおこなっていた手続をオンライン化し、住民の利便性を向上させることを目的としています。
「コネクテッド・ワンストップ」とは、民間サービスも含め各種手続を簡素化し、どこからでも一度に複数の手続・サービスが利用できる社会を目指す考え方です。
介護や引越し、死亡・相続など複数の手続が必要な場合に、利用者の手続が一度で完了するようサービスの利便性向上を図ります。
「ワンスオンリー」とは、マイナンバー制度を活用し、異なる行政機関での情報の連携によって、一度提出した情報を再度提出しなくても済むようにする考え方です。
具体的には、個々の行政手続において、住民票・戸籍謄本・登記事項証明書など、既に行政機関が保有している情報に関する添付書類の提出を省略できるようにします。
自治体の行政手続をオンライン化する主なメリットは以下のとおりです。
・行政手続作業の効率化・時間短縮
・地域住民の利便性向上
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
行政手続のオンライン化は、自治体職員の事務作業の負担を軽減し、業務の効率化につながります。
さらに、郵送費用や自治体職員の人件費等の運営コストの削減によって、自治体の財政状況の改善が期待できます。
具体的には、住民による申請情報と自治体が保有する情報との目視での照合作業が不要となり、自治体職員の作業負担が少なくなります。
また、申請者の個人特定が自動化されることで、本人確認の時間が短縮され、正確性の向上も図れるでしょう。さらに、住民票の発行などをコンビニエンスストアでもおこなえるようになることで、窓口の混雑が緩和されるメリットもあります。
行政のオンライン手続が実現すると、インターネット環境さえ整っていれば、場所や時間を制約されることなく行政手続が可能になります。
夜間や休日であっても、自宅やオフィスからでも、住民はスキマ時間に手続ができるため、時間の節約と手間の削減につながります。
平日に役所へ足を運びにくい方や高齢で外出が難しい方など、多くの住民にとって行政手続のオンライン化は利便性向上に欠かせません。
総務省は、自治体の行政手続のオンライン化に関して、具体的な手法や取り組むべき優先順位などを示したガイドラインを発表しています。その内容を詳しく説明します。
オンライン行政手続導入は、以下の4つのフェーズに沿って進めます。
・推進体制の構築
・オンライン化に取り組む手順の検討
・仕様検討・調達
・サービスの導入と運用
それぞれのフェーズについて詳しく説明します。
3.1.1 推進体制の構築
行政手続のオンライン化を進めるためには、まず従来の業務フローの改善と、異なる意見を持つ職員間の調整が必要です。
自治体職員全体での同意形成を促進し、情報技術の専門家と業務知識を持つ職員が協力する環境を整えることが重要です。
こうした取り組みを支えるためには、組織横断的な推進体制を迅速に確立することが求められます。
この過程で、行政手続のオンライン化に関する取り組みの意義や法的基盤を職員全体に説明し、理解と支持を得る必要があります。
さらに、デジタル改革を担当する部署が中心となり、オンライン行政手続導入のためのネットワーク構築・予算策定・プロジェクトの進行管理をおこないましょう。
3.1.2 オンライン化に取り組む手続の検討
続いて、オンライン化の対象となる行政手続を選定し、優先順位を決定しましょう。
そのためには、自治体内の手続の洗い出しをおこない、処理件数や紙原本の提出の必要性の有無、そして添付書類の性質などについて検証する必要があります。
なお政府は、子育てや介護関係の行政手続に関しては、原則、全自治体でのマイナンバーカードを使用したオンライン化を求めています。このような背景も視野に入れながら、各自治体における優先順位の高い手続から電子申請システムの導入を検討し、オンライン化を進めていきましょう。
3.1.3 仕様検討・調達
オンライン化を導入する手続の検討が終わったら、実際の導入に向け、各部門が協力してプロジェクトを遂行しましょう。
その際にまず必要なのは、オンライン手続導入に関する規定の整備や規則の改正をおこなうことです。
次に、現状の手続における事務フローを見直し、オンライン申請導入後の事務の運用をシミュレーションして仕様を検討しましょう。
検討した結果を踏まえ、オンライン行政手続におけるシステムを提供・開発する事業者や企業からサービス案と見積りを取得します。そして、関係部門と協議のうえで予算要求をおこないます。
3.1.4 サービスの導入と運用
具体的にオンライン行政手続を導入するに当たって、自治体とシステム開発事業者が連携し、運用マニュアルを作成しましょう。
そして、新システムの運用後も、使いやすさの改善や住民の意見の収集を継続し、行政サービスの質を向上させることが大切です。
さらに、オンライン手続の利用を促進するための広報活動や、チャットポッドの整備など、オンラインサービスの利用率向上に向けた取り組みをおこないましょう。
デジタル庁および総務省は、全国の自治体に対して優先的に、かつ早急にオンライン化に取り組むべき行政手続を挙げています。以下で詳しく説明します。
3.2.1 処理件数が多い行政手続
取り扱いが多く、オンライン化によって住民の利便性や自治体職員の業務効率の向上が期待できる行政手続きの代表例として、以下が挙げられています。
これらの行政手続に関して、現状の処理件数を検証したうえで、優先順位を決めてオンライン化を進めていきましょう。
3.2.2 住民のライフイベントに関する行政手続
優先的にオンライン化に取り組むべき、住民にとって重要なライフイベントに関する手続の代表例として、以下が挙げられています。
上記の手続は、個人情報の照合・確認のための添付書類が複数必要です。
ワンストップでこれらの手続が完了することで、住民と自治体職員双方の手間と労力を省き、負担軽減が期待できます。
自治体のデジタル改革は住民や自治体職員にとって多くのメリットがあります。
しかし一方で、その推進のために解決しなければならない課題と講じるべき対策も存在します。
ここからは、自治体のデジタル改革における課題と対策について詳しく解説します。
自治体のデジタル改革における課題の1つとして、情報セキュリティ対策が挙げられます。
行政手続のオンライン化には、個人情報の漏洩や不正アクセスなどのリスクが存在します。それゆえ、情報セキュリティリスクを分析・評価したうえで、システムの安全性を確保しなければなりません。
自治体は情報システム全体の強靭性の向上を図るとともに、物理的セキュリティ.・人的セキュリティ・技術的セキュリティ、それぞれの対策を講じる必要があります。
また、住民への広報活動やIT講習の実施などを通じて、情報セキュリティに対する意識を高めることも不可欠です。官民の連携・協力による地域全体の情報セキュリティ基盤の強化が求められます。
行政手続のオンライン化には、”デジタルデバイド”と呼ばれる、インターネットやパソコンを使える方と使えない方の間に生じる格差への対策が必要です。
特に高齢者や低所得者層などは、家庭にインターネット環境が整っていない場合がある点に留意しなければなりません。
具体的な対策としては、公共施設でのインターネット利用支援やデバイスの貸し出しをおこなうことが効果的です。
さらに、住民向けのIT講習を実施するなどデジタルデバイドの縮小に努めることが、自治体のデジタル改革を進めるうえで重要な役割を果たします。
住民の利便性向上のために取り組むデジタル改革において、行政サービスの使い勝手の向上は非常に重要な課題の1つです。
複雑なシステムや操作方法は住民にとってストレスになりうるでしょう。
自治体は利用者の利便性を考慮し、行政サービスの使い勝手や利用のしやすさを向上させる必要があります。
そのために、まずUI/UXデザインの改善に着手すべきです。
UI(ユーザーインターフェイス)とは、Webサービスにおいてユーザーとサービスをつなぐ部分を指し、パソコンやスマートフォンなどのデバイスを含みます。
UX(ユーザーエクスペリエンス)は、Webサービスの利用者がサービスを利用する際の体験全体や顧客体験を意味します。
これらを改善することで、住民がストレスなくオンラインでの行政手続を利用できるようになります。さらに、操作ガイドの充実を図り、住民の利便性向上に努めましょう。
また、専門の人材を登用して、自治体職員に対してIT関連の研修や学習の機会を提供することも大切です。これにより、職員がシステムの改善や運用における専門知識を持ち、住民に対しても適切なサポートがおこなえるようになるでしょう。
オンライン行政手続の導入や人材育成に関する費用の問題は、自治体のデジタル化を推進するに当たって無視できません。自治体は、オンライン化の導入コストや自治体職員の教育に対応するための費用を確保しつつ、財政負担への対策を講じる必要があります。
そのためには、国によるデジタル基盤改革支援補助金や特別交付税措置を有効活用しましょう。これらの支援策をうまく利用することで、システム導入や人材育成の財政負担を軽減できます。
自治体のオンライン行政手続を推進するうえで、地域住民へのマイナンバーカードの普及推進は非常に重要です。
マイナンバーカードの基本的な概要と、自治体のデジタル改革にマイナンバーカードが果たす役割を説明します。
マイナンバーカードは、ICチップを搭載し、顔写真や氏名・住所・生年月日・性別・個人番号などの情報が記載されています。
身分証明証として活用できるだけでなく、自治体サービスや国の納税に関するオンラインサービス(e-tax)にも利用可能です。
マイナンバー制度は、行政手続の簡素化を目指す制度であり、行政の効率化と国民生活の利便性向上を実現するために欠かせません。
マイナンバーカードは、行政手続のオンライン化において重要な役割を担っています。
マイナンバーカードを所有していれば、コンビニで住民票を取得できるほか、2023年3月からは健康保険証としても利用できるようになりました。さらに、引越しや法人設立などに関する行政手続もマイナンバーカードを利用することでワンストップで申請できます。
政府や自治体は、様々な行政手続のオンライン化を進めています。
その中で利便性が高まったサービスとして注目されているのが、ふるさと納税の申請手続のオンライン化です。詳しく解説します。
ふるさと納税は、国民が居住地や出身地などに関係なく任意の自治体に寄付できる制度です。ふるさと納税を利用し自治体へ寄付をすると、所得税や住民税から寄付額の2,000円を超える部分が控除されます。
さらに、寄付者は自治体に対して寄付金の使い道を指定でき、返礼品として地域特産品などを受け取ることができます。
ふるさと納税のワンストップ特例制度とは、一定の条件を満たせばふるさと納税の確定申告が不要になる便利な制度です。対象者はふるさと納税以外の確定申告が不要な方で、1年間に寄附先が5自治体以内であることが条件となります。
この特例申請はオンラインでおこなうことができるため、多くの方にとってふるさと納税が利用しやすくなりました。
ここからは、各自治体のオンライン行政手続に関する具体的な取り組み事例をご紹介します。
群馬県前橋市では、母子健康手帳を電子化しました。これにより、住民は自治体からの子育てに関するお知らせや、子どもの予防接種の履歴・健康検診の結果などをいつでもオンライン上で確認できます。
これらの情報が集約され一元化されたことで、自治体と親の両方にとって子育てに関する各種行政手続の利便性が向上しました。
三重県津市では、マイナンバーカードを活用した高齢者の外出支援策として「シルバーエミカ」を導入しています。
「シルバーエミカ」は、マイナンバーカードを保有する65歳以上の住民に交付されるICカードです。カードを提示すれば、高齢者は路線バスやコミュニティバスをお得に利用することができます。この取り組みは、高齢者の生活の充実や福祉の向上を目的としています。
近年、行政手続のオンライン化が進められ、ふるさと納税の申請も利便性が向上しました。自治体は、年々受入額が増加しているふるさと納税を効果的にPRし、地域活性化へとつなげていきましょう。
ここでは、「ふるさと納税」のPRに最適な、地方自治体に特化した広告配信プラットフォーム「まちあげ」をご紹介します。
「まちあげ」は、地方自治体のWebプロモーションをサポートするプラットフォームです。
観光や移住支援・ふるさと納税に興味関心のあるユーザーに向けて広告配信が可能です。
観光客の獲得、移住者の誘致、そしてふるさと納税の訴求にぜひご活用ください。
「まちあげ」を利用することで、ふるさと納税に興味関心のあるユーザーに対して、地域の魅力を効果的に配信することができます。
実際に「まちあげ」を活用して、ふるさと納税に関心の高い層に向けて親和性の高いターゲティングで広告配信を実施した自治体の例をご紹介します。広告配信をおこなった結果、クリック単価を目標よりも33%下回ることに成功しました。
自治体の行政手続のオンライン化は、政府が推進するデジタル改革の重要な課題です。オンライン化により手続の効率化や時間短縮の実現、そして住民の利便性向上と自治体の運営コスト削減が期待できます。
自治体のご担当者の方は、今回ご紹介した自治体の取り組み事例を参考に、行政手続のオンライン化に向けて具体的なアクションを起こしましょう。