少子高齢化が進むなか、日本の医療費は増加の一途を辿っており、自治体の財政負担はますます大きくなっています。このままのペースでは現在の医療システムが立ち行かなくなる恐れもあり、中長期的な課題と捉えている自治体も多いのではないでしょうか。
本記事では、各自治体の医療費の現状・医療費削減に取り組む重要性・医療費の増加要因に加えて、医療費を削減するために取り組むべき施策ついて詳述。加えて、医療費削減に成功した自治体の取り組み事例について解説しています。
自治体の医療費削減において、健診・保健指導の促進は欠かせません。記事の後半では、健診受診を促進する自治体向けのプロモーションツール「けん診でまちあげ」をご紹介しています。地域の健康増進を促し医療費削減を目指す自治体のご担当者は、ぜひ最後までご覧ください。
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近年、自治体の医療費負担増加が問題視されています。医療費の現状と自治体が抱える課題についてみていきましょう。
少子高齢化を背景に、自治体の医療費負担は増え続けています。厚生労働省の「令和3(2021)年度 国民医療費の概況」によると、令和3年度の日本の医療費は45兆359億円。10年前と比較して約17%増、20年前との比較で約45%増加しています。
医療費を年齢階級別にみると、65歳以上が27兆3,036億円で全体の60.6%。45歳〜64歳が9兆9,421億円で全体の22.1%です。すなわち、45歳以上の医療費が全体の約8割を占めています。
自治体の医療費における課題の一つが、地域間格差です。2022年度の都道府県別一人あたりの医療費は高知県が44万6千円で最も高く、最も低い埼玉県(31万円)の1.44倍です(※1)。
地域間格差が生じる理由は、主に以下の6点です。
厚労省の分析では、医師数や病床数が多い地域では医療費が高くなり、医療機関が少ない地域では患者の受診回数や入院期間が短くなり医療費が低くなるという結果が出ています。
※1)厚生労働省 令和4年度(2022年度) 医療費(電算処理分)の地域差分析
自治体が抱える様々な課題のなかでも、医療費削減は喫緊の課題です。本章では、自治体が医療費削減に取り組む重要性について解説します。
2025年には、いわゆる「団塊の世代」が75歳以上となり、全人口の約5人に1人が後期高齢者になると推計されています(※2)。
加えて、認知症高齢者の数は2012年の462万人から2025年には700万人、65歳以上の高齢者の5人に1人に達するという推計があり、今後も増加が続く見通しです(※3)。この状況が続けば、医療費や介護費などの社会保障費の増大は免れません。
また、15歳〜64歳の生産年齢人口と出生数も年々減少が続いており、高齢化社会を支える現役世代の労働力不足が懸念されています(※4)。
さらに、2040年には世代人口が多い1971年〜1974年生まれの「団塊ジュニア」が65歳を超えるため、高齢者人口の増加がピークに達すると予測されています。先を見据えて早期に対策しなければ、問題はより一層深刻化しかねない状況です。
※2)厚生労働省 我が国の人口について
※3)厚生労働省 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)
※4)総務省 令和4年版 情報通信白書|生産年齢人口の減少
近年、多くの自治体で公的医療保険における収支のバランスが取れなくなり、財政状況が悪化しています。これは、「国民皆保険」という日本の医療システムが危機に瀕しているともいえる状況です。
医療の「支出」=「医療にかかる費用」が増えている原因は主に2つあります。1つは高齢者人口の増加で、もう1つは医療技術の高度化です。後者の例を挙げると、従来のX線によるレントゲン撮影が1回数千円程度なのに比べて、近年用いられるようになったMRI検査は保険適用でも1回1万円近くかかる場合があります。
一方、医療の「収入」=「国民が納めている保険料」が減少している原因は、経済成長の鈍化と労働人口の減少です。厚労省がまとめた国民健康保険の財政状況の資料によると、被保険者が前年度より82万人減った2022年度の収支差引額は、67億円の赤字です(※5)。
今後も収支バランスの崩れた状態が続くと、現行医療制度の瓦解は避けられません。
※5)厚生労働省 令和3年度国民健康保険(市町村国保)の財政状況について
医療費の削減は必要ですが、過度な抑制にはリスクがともないます。医療が高度化するなか、設備や薬剤などのコスト圧縮は困難です。その結果、経営を維持するために医師や看護師の人件費を削らなければならなくなると、人手不足による医療機関の倒産や医師の過剰労働につながりかねません。
これらの課題は、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」で解消できるという考え方もあります。しかしながら、経済的な理由で医療を受けられる方とそうでない方の格差が生まれてしまうため、現行の法律では禁止されています(※6)。
闇雲に医療費削減を推し進めるのではなく、正しい原因を見極め、適切な施策を講じなければなりません。
※6)厚生労働省 保険診療と保険外診療の併用について
上述の少子高齢化・医療技術の高度化以外にも、自治体における医療費増加の要因として以下の2点が挙げられます。
それぞれについて解説します。
同じ症状の治療を違う病院を回って複数回受ける「はしご受診」も、医療費増加の一因です。複数の医療機関で一から同じ検査をおこなって処方された薬が重複するなど、本来不要な医療費が生じているケースが散見されます。
はしご受診は、がんなどの重い病気の患者が最善の治療を選択するために別の医師の意見を求める「セカンドオピニオン」とは異なるため注意が必要です。セカンドオピニオンは担当医の変更や転院ではなく、主治医と相談しながら最善の治療方法を選択するための手段の一つです。
はしご受診は、患者にとって医療費や時間の無駄が増えるだけでなく、体の負担にもなりデメリットしかありません。また、不要不急な時間外や深夜・休日などの受診も、医療費の増加に加えて、医師や看護師の負担増につながります。
健康診断の受診率を高めて健康の増進を図ることも医療費削減には重要です。なかでも特定健診の受診は、疾患の早期発見や早期治療につながります。
特定健診とは、40歳〜74歳の方を対象にした生活習慣病予防のための健診です。厚生労働省の資料によると、熊本県のある町の健診未受診者の医療費は健診受診者に比べて高く、特に70歳以降で急激に増加しています(※7)。
受診した方の中にも、「要治療」と判断されたまま放置するケースが多いのも課題です。
ティーペックが会社員1,000名を対象におこなった「健康診断に関する調査」によると、健診結果で「再検査があった」「要受診があった」と回答した人は33.5%でした。「再検査」や「要受診」となった方のうち、約26%が「検査を受けていない、あるいは医療機関を受診していない(受けるつもりがない)」と回答しています(※8)。
また、ある地域では「要治療」と判定されてから、3ヶ月後に受診した人が10人に1人もいないという結果が出ています(※9)。
健診の未受診や受診後の放置によって疾患の発見や治療が遅くなると、症状が重篤化し本人の負担は増すばかりです。加えて、治療期間の長期化および治療の高度化につながり、治療費のさらなる増加を招きます。
※7)厚生労働省 日本赤十字社熊本健康管理センター 小山和作名誉所長 資料より
※8)ティーペック “健康診断に関する調査”を実施!会社員の受診率は?「再検査」「要受診」になっても約26%は放置!?
※9)協会けんぽ 健康づくりサポート①健診結果、放置していませんか?
前章でお伝えしたとおり、健康診断の受診促進は医療費削減のために不可欠な取り組みです。各自治体は、健診受診や生活習慣の発症リスクが高い方への特定保健指導も同時におこなっていかなければなりません。
2021年度の特定健診の受診者数は、対象となる約5,380万人のうち約3,039万人で実施率は56.5%。特定保健指導の実施数は、対象となる約526万人のうち約129万で実施率は24.6%でした。特定健診の受診者数は若干のアップダウンはありながらも微増を続けていますが、特定保健指導の実施数は2018年からほぼ横ばいとなっています(※10)。
厚労省の検証によると、特定保健指導を受けた方の翌年度の医療費は、保健指導を受けなかった方に比べて低くなることがわかっています(※11)。したがって、健診の受診率だけでなく、特定保健指導の実施率も医療費削減における重要な指標です。
※10)厚生労働省 2021 年度特定健康診査・特定保健指導の実施状況について
※11)日本医療・健康情報研究所 特定保健指導で医療費が3割減少 厚労省WGが糖尿病などで検証
「特定健診未受診者へのアンケート調査からみた 未受診の要因と対策」という論文によると、健診未受診の理由として挙げた最も多い回答は「通院しているから」です。通院時の検査は治療目的であり、病気を早期発見して重症化を防ぐ特定健診とは目的が違うことを周知徹底しなければなりません。
健診未受診の理由として、そのほかには「仕事や家事が忙しい」「費用がかかる」という回答が目立ちます。また、特定健診への希望としては、「自己負担料金の無料化」「夜間や土日も受診可能」「健診を受けられる場所や期間を増やす」などが挙げられています。
健診・保健指導への正しい理解を促すためにもプロモーションが重要です。その際、費用を低く設定したり、受診できる場所や期間を増やしたりといった関心を持ってもらうための工夫が必要です。
ほかにも、自治体の医療費削減効果が見込める施策はいくつかあります。健診受診や保健指導の促進と併せて、検討しましょう。
近年は、大量のデータを分析して病気を予防し、医療費の増大を抑制しようとする「データヘルス」の取り組みが進んでいます。
日本では、2008年から健康診断の結果や診療報酬明細(レセプト)などが電子化され、医療データを蓄積できるようになりました(※12)。医療機関は、健診・保健指導のデータとレセプトデータを突合し、一人ひとりにあった健康増進プログラムの紹介が可能です。
例えば、血圧・心拍などのバイタルデータなどをウェアラブル端末を用いて計測し、日々の健康管理をするといったソリューションが多数生まれています。また、データに基づいた健診の必要性を伝えて受診者の行動変容を促すことにより、健診受診の促進にもつながります。
※12)内閣府 レセプト電子化の取組の経緯
新薬と同じ成分や効能・効果が認められて販売されるジェネリック医薬品(後発医薬品)は、新薬に比べて5割以上安くなる場合もあり医療費削減につながります。
日本におけるジェネリック医薬品の数量シェアは、2013年には46.9%と5割に満たない状況で、諸外国に比べて普及が遅れていました。そこで、ジェネリック医薬品の数量シェアを2023年度末までに全ての都道府県で80%以上とする目標を掲げ、使用促進を図りました。その結果、2023年9月時点の速報値で80.2%にまで増えています(※13)。
※13)厚生労働省 後発医薬品の使用割合の目標と推移
セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てする」という考え方です。
例えば、「普段から適度な運動や栄養バランスのよい食事をとる」「十分な睡眠を確保する」などが該当します。また、体調が悪くなったときは放置せず、市販薬を活用するなどして早めに対応する心がけも大切です。
セルフメディケーションは、特に生活習慣病の予防に効果があります。セルフメディケーションの促進を目的としてスイッチOTC医薬品を購入すると、その費用が所得税控除の対象となるなど、法整備もおこなわれています(※14)。
スイッチOTC医薬品とは、医師から処方される医療用医薬品のうち、副作用が少なく安全性の高い薬を市販薬(OTC医薬品)に転用したものです。このセルフメディケーション税制の利用促進により、医療費負担の抑制が期待できます。
※14)厚生労働省 セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について
医療費増加という地域課題に対し、独自の取り組みをおこない成果をあげている自治体も多く存在します。具体的な取り組み事例から医療費削減のためのヒントを探りましょう。
北海道帯広市では、糖尿病の有所見割合が道内でも突出して多く、がんで亡くなる方の割合も全国平均に比べて高いという大きな健康課題を抱えていました。
そこでおこなった施策が、ウォーキングアプリ「SPOBY」を活用した健康増進の取り組みです。スマホを持って歩くだけで、スポンサー企業による様々な特典が受けられるというゲーム性と手軽さが反響を呼び、90日後の継続利用率は70%越えを記録。1日あたり約1,000歩の運動量底上げを実現し、一人あたり約22,000円の医療費削減につながっています(※15)。
※15)SPOBY 運動習慣のない市民の活動量底上げに成功/年間医療費4700万円相当削減〜帯広市〜
広島県呉市は、レセプトデータの分析などICT(情報通信技術)を用いたデータヘルスの取り組みを積極的におこなっている自治体として知られています。
なかでも代表的な取り組みとして挙げられるのが、「ジェネリック医薬品使用促進通知サービス」です。このサービスでは、がんなど重篤な疾患以外に処方される薬をジェネリック薬に変えることによって、負担金額が一定額以上少なくなる場合に差額を市が通知します。
この取り組みの結果、同市では2008年からの累計で約3万5千人がジェネリック医薬品へ切り替えました。医療費に換算して約1億9千万円もの削減効果があったと見込まれています(※16)。
※16)呉市 「ジェネリック医薬品使用促進通知サービス」による医療費削減効果
富山県では、広域にアプローチできる県の強みを活かした市町村支援で医療費削減の取り組みを推進しています。元来、富山県の特定健診受診率は全国的に高い水準を誇りながらも、市町村ごとの格差が課題でした。そこで、健診受診の促進と保健指導を支援するための事業をスタートしました。
健診の受診率向上を目的とした広報・啓発事業では、研修会・市町村別相談会を通じて効果的な受診の勧め方を市町村に周知し、受診率向上の底上げを図っています。加えて、特定保健指導の効率化・質の向上・指導レベルの標準化を⽬指し、保健指導を実施するためのタブレット教材の提供などを実施しています。
これらのヘルスアップ支援事業を展開した結果、多くの市町村で保健事業の取り組み改善につながり、健診受診率の格差も縮小されています。
「けん診でまちあげ」とは、地域の方々の健康増進を目的とした広告配信をおこなえる、地方自治体に特化したマーケティングプロダクトです。健康状態や特定の症状などに関心のある方々に向けて、健康促進関連の情報を届けられます。
「けん診でまちあげ」の特徴は、豊富なデータから属性や関心がある項目などでセグメント分けし、高い効果が見込めるターゲット選定をおこなえる点です。
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例えば、健康診断が義務化されてないパートやアルバイトの方に対し、Web広告で積極的に健診受診を促したい場合などに活用できます。
少子高齢化によって増え続ける医療費を削減するために、各自治体では様々な施策がおこなわれています。なかでも、特定健診の受診促進と特定保健指導の実施支援は、地域の方々の健康増進を図るうえで欠かせない取り組みです。
本記事では、各自治体の医療費の現状と医療費削減に取り組む重要性のほか、医療費の増加要因や医療費を削減するための施策について解説しました。ICTなどの先進的な方法を積極的に採り入れて医療費削減で成果をあげている自治体も見受けられるので、参考にしてはいかがでしょうか。
記事の後半でご紹介した「けん診でまちあげ」を活用すると、地域の方々の健康意識を高める効率的なプロモーションが可能です。これを機会に、地域の健康増進に関する情報発信や健診受診の促進に役立つ、「けん診でまちあげ」の利用をご検討ください。