都市部への人口集中と地方の人口減少の解決を図るためには、地域活性化が急務です。そんななか、自治体のICT利活用による地域活性化が注目を集めています。
2018年の段階で、日本企業のICT導入率は70.2%。導入率が90%を超える欧州企業と比べると、導入が遅れているのは明らかです(※1)。
本記事では、まず最初にICTの定義と IT・IoT・DXとの違いやICT利活用の現状について解説します。続いて、地域活性化を図る自治体においてICTが果たす役割や導入するメリット・課題に加えて、ICTを利活用し地域活性化に成功している自治体の事例をご紹介します。
ICT利活用による地域活性化を目指す自治体のご担当者は、今後の取り組みの参考にしてください。
※1)総務省 平成30年情報通信白書
総務省は、ICTを生産活動の効率化や国民生活の利便性を高めるため必要なものと位置づけ、経済成長の重要な鍵になると定めています。まず最初に、自治体が導入を推進しているICTとは何を指すのかやICT利活用の現状について解説します。
ICTとは、情報処理や通信技術の総称を指す言葉です。従来は「IT(情報技術)」という言葉を使用していましたが、時代が進むにつれて通信技術を活用した人と人のコミュニケーションが重要視されるようになりました。そこで、技術そのものを指すITではなく、コミュニケーションを含む「ICT(情報通信技術)」を使用するケースが増えています。
内閣府が定義する社会=Societyにおいて、ICTはIoTやAI技術が活躍する社会「Society5.0」に位置づけられます。
ICTと似たような言葉でIT・IoT・DXなども耳にする機会が増えてきました。ICTとの違いや関連性を解説します。
ITは、パソコンのハードウェアやアプリケーション・OA機器・インターネットなどの通信技術やインフラなどを含む情報技術を表します。ICTはITとほぼ意味合いは同じですが、情報伝達を重視しており、ITの活用方法や方法論を指します。
IoTは、家電製品や車といったモノをインターネットに接続して情報を送受信する技術です。スマートスピーカーなどが該当します。ICTは人と人・モノとモノ・人とモノを繋いで
コミュニケーションをする方法とそのシステムを表わします。IoTを活用するためにICTは不可欠であり、ICTの活用方法のひとつとしてIoTがあります。
DXはデジタルトランスフォーメーションの略で、デジタル技術を活用した組織構造やビジネスモデルの変革を指す言葉です。ICTは上述のように情報伝達芸術であり、DX実現のために不可欠な技術です。
令和5年情報通信白書によると、世界のICT市場の支出額はスマートフォンやクラウドサービスの普及などにより、2016年以降増加傾向で推移しています。
世界の2022年のICT市場支出額は、578.9兆円で前年比19.8%増と大きく増加。今後もさらに拡大を続けると予測されています。また、日本の2022年のICT市場支出額は前年比5.2%増の27.2兆円と、順調に増加を続けています。
地域活性化とは、それぞれの地域の経済活動や社会・文化活動を活発化させることです。本章では、地域活性化が必要な理由について解説します。
総務省統計局の人口推計によると、日本の人口は2024年5月1日現在の概算値で約1億2400万人。前年同月比で、55万人の減少です。年々人口は減少傾向にあり、特に15歳未満の人口は前年同月比で2.3%減少、15歳から64歳の人口は0.33%減少しています。一方、65歳以上の人口は前同月比で0.7%増加しており、少子高齢化が進んでいます(※2)。
※2)総務省統計局 人口推計(2023年(令和5年)12月確定値、2024年(令和6年)5月概算値)
総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、2024年4月の東京圏への転入者数は90,233名、転出者数は66,340 名でした。転入者数から転出者数を引いた転入超過は23,883 名と、一極集中の流れが進んでいます。(※3)
※3)総務省統計局 住民基本台帳人口移動報告
総務省が公表した「地方公共団体定員管理調査結果」によると、令和5年度の地方公共団体の職員数は2,801,596人。前年の2,803,664人に比べて2,068人減少しました。
昭和時代は民生部門や福祉・医療部門の充実にともない、職員数は増加を続けました。しかしながら、平成7年の3,282,492人をピークに職員の減少が続きます。令和になり職員数は微増したものの、令和5年は前年よりも減少する結果となりました。
地域活性化を図る各自治体において、ICTは地域の課題解決にも役立ちます。本章では、自治体においてICTが果たす役割を解説します。
各自治体で、地域インフラを活性化するためにICTの導入や利活用が進んでいます。地域インフラとは、公衆Wi-Fiの設置・公共施設への無線LANの整備・テレワーク拠点の整備などです。地域インフラの活性化により、移住定住の促進ならびに地域の雇用基盤の強化・再生を図ります。
ICTはSNSやYou Tube等での観光情報の発信・プロモーションにも活用されています。動画配信やSNSの活用によって国内外の観光客増加を図るなど、観光振興にも役立つ技術です。
インバウンドの受入体制の強化においても、ICTの利活用が進んでいます。例えば、多言語翻訳システムや多言語案内表示等の充実化のほか、無料Wi-fiサービスの提供などの取り組みが該当します。
一般社団法人自治体DX推進協議会の調査によると、地域活性化においてDXやICTの利活用を推進している自治体は約20%という結果でした(※4)。ただし、今後導入する自治体は増えていくと推測されます。
※4)PR TIMES 分野別自治体DX進捗調査、地域活性化は21.4% 住民生活は41.4%の自治体が進んでいると回答
ICTは緊急速報や安否確認・被害予測や情報収集にも活用されています。防災分野の技術革新や災害に強い地域づくりを目指し、各自治体ではICTを活用した取組みをおこなっています。代表的なのは、LアラートやG空間情報(地理空間情報)などです。
Lアラートとは、災害発生時にメディアを通じて情報を迅速に伝達する共通基盤です。G空間情報とは、位置や場所に関連づけられている地理空間情報を指します。
自治体におけるICT活用は、自治体職員と住民の双方に多くのメリットをもたらします。本章では、自治体がICTを活用するメリットについて解説します。
ICT利活用の一例として、行政手続きのオンライン化が挙げられます。住民は自宅やオフィスなど場所を問わず、スキマ時間にいつでも手続きをおこなえるため時間の節約と手間の削減が可能です。
自治体職員も役所での窓口対応が軽減され、事務処理の時間短縮につながります。また、公式LINEやSNSなどによる情報発信と共有は、住民とのコミュニケーションの活発化につながるでしょう。
ICTの利活用は、人手不足や人材不足に悩む自治体にとって、これらの問題解決に役立つと期待されています。一例を挙げると、OCRやチャットボットの活用による役所の業務効率化です。
OCRとは、紙面に印刷された文字をスキャナで読み込んでテキストデータに変換する技術です。チャットボットは、人工知能(AI)と自然言語処理(NLP)を活用して、質問や問い合わせに自動応答するプログラムです。
役所での窓口対応をチャットボットやSNSでの発信・問い合わせ対応に切り替えることで、職員の負担を軽減でき情報伝達のスピード向上につながります。
自治体が保有する住民データを活用し、行政手続きの効率化などに利用できるのもメリットといえるでしょう。申請者本人の同意のうえで、自治体が保有するデータを参照し、転出や転居の手続きで必要となる世帯情報を自動入力できる仕組みなどが該当します。
また、民間事業者との連携による人流データの有効活用も進んでいます。リアルタイムの活動情報を獲得することで、地域活性化の促進につながると期待されています。民間企業との連携を進めている主な事例は、以下のとおりです。
人工知能(AI)技術を利用すると、取得したこれらの膨大なデータの統合・分析が可能です。その結果、ビッグデータを活用したエビデンスに基づく政策立案(EBPM)の実現につながります。
ICTの導入を進める自治体は増えてきたものの、まだまだその活用は十分とはいえない状況です。本章では、自治体におけるICT導入の現状と課題を解説します。
予算確保が困難な自治体も多く、導入が進まないのが課題といえるでしょう。
総務省の調査報告によると、2016年度のICT関連予算額は「5億円未満」という回答が45.2%で最も多く、次いで1億円未満が17.4%でした(※5)。十分なICTの運用コストを確保できない自治体が多く、導入が進まない点が課題です。
※5)総務省 地域におけるICT利活用の現状に関する調査報告(平成29年)
ICT導入はインフラやサービスの基盤となります。自治体を始めとした社会全体でICTを利活用するには、一人ひとりが安心して利用できるようにしなければなりません。そのためには、サイバーセキュリティの確保が重要です。
昨今、IoT機器を狙ったサイバー攻撃が多数観測されており、セキュリティ対策を強化する必要があります。セキュリティに関する不安が課題となり、ICTの利活用を躊躇する自治体も依然として多く見受けられます。
上述の総務省の調査報告で、ICT導入における要望や課題として「人材やノウハウが不足している」と回答した自治体が約80%にのぼりました。
また、地域で ICT利活用を推進するために不足している人材としては、「ICTの利活用ができる人材の不足」と回答した自治体が約75%、「リーダー人材」が約70%。以下、「ICT仕様が理解できる人材」が約65%で続きます。
各自治体において、職員の中でICT導入に対する知見を持つ担当者が少ない、もしくは不足している現状もICT導入が進まない要因といえるでしょう。
各自治体が様々な分野でICTを活用して、地域活性化に役立てています。本章では、そんなICT利活用の成功事例をご紹介します。
群馬県川場村では、ICT技術を活用した働き方改革に取り組んでいます。従来は手作業でおこなっていた業務の省力化に成功しました。
消火栓の位置や災害時の被害状況などの行政データを可視化できるGIS(地理情報システム)を用いて、業務を効率化。加えて、台風の被害状況を集約して災害対策本部に位置情報と被害状況のタイムリーな共有をおこない、即応性のある対応を可能にしました。
「まちケア」は、平成30年7月に甚大な浸水被害が発生した倉敷市真備地区で提供された被災者支援情報ポータルサイト「まびケア」を機能拡充したものです。自然災害の被災者に生活支援の情報提供をおこなうために立ち上げられました。
平時もオープンデータを整備し、災害発生時にデータを有効活用できるような地域防災力の向上を支援しています。「まちケア」は、被災者が必要とする情報を提供する全国どこでも利用可能なポータルサイトです。
農業分野でのICT利活用の成功事例として、長野県塩尻市の鳥獣被害対策が挙げられます。
農業が盛んな塩尻市の北小野地区では、鳥獣による農作物の被害が多いのが課題でした。そこで、被害を食い止めるため、ICTを活用した獣検知センサーと罠捕獲センサーを設置しました。
獣検知センサーで獣を確認するとサイレン音やフラッシュの光で追い払う仕組みで、鳥獣を検知した情報はクラウドを経由し農家などに情報を届けられます。その結果、鳥獣による被害面積の割合が85%から0%に減少して稲作収入が7倍増加しました(※6)。
※6)総務省 センサーネットワークによる鳥獣被害対策
徳島県では、高齢者になじみのあるテレビをICTツールとして活用して避難完了までの時間短縮を実現しました。あらかじめ住民に配付したICカードをIDで紐づけて、個人名付きの避難指示をテレビ画面に表示。これにより、避難完了までの時間短縮を実現しました。
また、テレビの視聴履歴の把握によって、災害時の在宅状況の確認とともに、平時における高齢者の見守りにも活用できます。
水産業が産業の中心である愛媛県愛南町の課題は、魚病や赤潮などの漁業被害の発生です。愛南町では、漁業被害の軽減には情報共有やデータ分析が不可欠だと判断しました。
そこで、ICTを活用した「水域情報可視化システム」「魚健康カルテシステム」「水産業振興ネットワークシステム」の3つのシステムの運用を開始。これらはまとめて「愛南町次世代型水産業ネットワークシステム」と名付けられ、町・漁協・大学・漁業者が連携して運用しています。
その結果、情報の共有化と漁業被害の対策を連携できるようになり、漁業被害の削減を実現できました。
「まちあげ」では、地域活性化を図る自治体のニーズや課題に合あわせたターゲティング広告の配信が可能です。ここでは、具体的な導入メリットを2つご紹介します。
1つ目のメリットは、観光・移住・選挙などの自治体のニーズや課題にマッチしたターゲットの選定が可能な点です。ターゲットを捉えた広告配信により、広告費用を抑えて広告配信できます。
2つ目のメリットは、Webサイトへのバナー配信やTverでの広告配信など配信先が豊富な点です。加えて、広告配信後には、分析レポートによって広告の費用対効果を可視化できます。
地域活性化におけるICTの利活用はメリットが大きいものの、導入している自治体はまだ少ないのが現状です。
本記事では、ICTと混同されがちなIT・IoT・DXのそれぞれの意味と違いのほか、ICT利活用のメリットならびに現状や課題について解説しました。加えて、ICT利活用により成果をあげている自治体の成功事例をご紹介しました。
記事の後半で扱ったのは、地域活性化を図る自治体に役立つマーケティングプラットフォーム「まちあげ」です。ICT利活用を検討している自治体のご担当者は、ぜひ導入をご検討ください。