自治体の役割は、法律で次のように定められています。
「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」
引用:地方自治法第一条の二
具体的には、住民が安全に安心して暮らすことができるまちづくり・地域産業の活性化・地域課題の解決などが、自治体の使命だといえるでしょう。そのためには地域住民の税金を効果的に活用した予算編成と執行が必要です。
この記事では、自治体における予算の仕組みや予算編成から成立までのスケジュールをご紹介します。
記事の後半では、自治体の予算の具体例として、年間の広報・PR計画を作成して予算を立てる際のポイントについて解説します。自治体の職員や、広報のご担当者は、ぜひ参考にしてください。
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自治体の仕事は、住民が豊かで健康的な生活を送れるように取り組みをおこなっていくことです。公共施設や上下水道・ゴミ処理・出産・育児・介護などの行政サービスを運営していくためにはお金が必要です。どのサービス、どの取り組みにどれだけのお金を充てるのか、自治体では年度が始まる前に計画を立てます。
自治体の予算は、以下のように法律で規定されています。
普通地方公共団体の長は、毎会計年度予算を調製し、年度開始前に、議会の議決を経なければ ならない。この場合において、普通地方公共団体の長は、遅くとも年度開始前、都道府県及び第二百五十二条 第二百五十二条の十 九第一項に規定する指定都市にあつては三十日、その他の市及び町村にあつては二十日までに当該 算予を議会に提出するようにしなければならない。
引用:地方自治法第二百十一条
つまり自治体の予算とは、その年度における収入と支出の計画を決めることを指します。市長や町長などの地方公共団体の長が予算を提案し、議会での議決を経て決定します。
自治体の行政サービスの財源は、住民や法人が納める地方税と、国から交付される地方交付税や国庫支出金等で構成されています。ゆえに、自治体は財政運営をおこなううえで住民の理解と協力を得て、住民の方々が納得するように税金を有効に活用する必要があります。
自治体が予算編成をする目的は、住民から徴収した税金を住民のために適切に運用・管理することです。
都道府県知事・市町村長が自治体の予算編成の方針を決めて、その方針に基づき自治体の職員がどの事業にどのくらいの予算がかかるかなどの計算をおこないます。
そして、最終的に予算を決定するのは各市町村の議員が集まる議会です。議員は住民の選挙にて選出されていますので、予算の決定権は住民にあるといえます。
自治体の一つの年度におけるすべての収入は「歳入」と呼ばれます。歳入は「一般財源」と「特定財源」に分けられ、使い道などに違いがあります。
一般財源とは、自治体が自由に使えるお金のことです。「福祉に力を入れたい」「子育て支援に力を入れたい」というような地域それぞれの需要に合わせて使い道を決めることができます。
特定財源とは、使い道が決められているお金のことです。義務教育や道路の整備のために使用される国庫支出金などが特定財源に当てはまります。
一般財源と特定財源を分類すると、以下の表のようになります。
一般財源 |
・地方税 ・地方譲与税 ・地方特例交付金等 ・地方交付金 ・利子割交付金 ・地方消費税交付金 ・自動車取得税交付金 |
特定財源 |
・国庫支出金 ・都道府県支出金 ・地方債 ・分担金 ・負担金 ・使用料 ・手数料 |
一つの年度におけるすべての支出のことを「歳出」と呼びます。歳出の分類の仕方は大きく二つに分けられます。
一つ目の分類方法は「目的別歳出」です。その名のとおり経費を目的別に分類したものです。もう一つの分類方法は「性質別歳出」です。こちらは目的ではなく経費の性質で分類します。この性質別歳出は「義務的経費」と「投資的経費」と「その他の経費」で分けられます。
それぞれの分類方法を、以下の表にまとめました。
目的別歳出 |
項目 |
・衛生費 ・教育費 ・民生費 ・災害復旧費 ・公債費 ・議会費 |
性質別歳出 |
項目 |
義務的経費 |
・人件費 ・扶助費 ・公債費 |
投資的経費 |
・普通建設事業費 ・災害復旧事業費 ・失業対策事業費用 |
その他の経費 |
・物件費 ・維持補修費 ・補助費等 ・繰出金 ・積立金 ・投資及び出資金 ・貸付金 |
自治体の予算は大きく以下の5つに分類することができます。
それぞれについて簡単に説明します。
当初予算は、本予算とも呼ばれ、年度が始まる前に計画された当初の予算のことを指します。基本的にこの当初予算をもとに各事業は実施されます。
補正予算は、予算が決定した後で、追加が必要となった場合に調整される予算のことです。
暫定予算は、年度が始まるまでに予算が成立しない場合に、成立するまでに暫定的に編成される予算のことです。本予算が成立するまでのつなぎの予算を指します。
骨格予算は、年間予算として必要最低限の支出だけを計上した予算のことです。人件費などの義務的経費を主体として計算されます。
肉付予算は、新しい事業に充てる補正予算など、骨格予算のあとに追加される予算のことです。
自治体の予算は実効性を確保するために法令などによって、以下のようないくつかの原則があります。
それぞれの原則についてご説明します。
統計予算主義の原則とは、一つの年度における支出と収入はすべて予算編成に入れなければならないという原則です。歳入歳出を相殺せずに、すべてを予算に計上する必要があります。
会計年度独立の原則とは、その年度における歳出は、その年度の歳入を充てなければならないという原則です。つまり、その年度で必要になるお金は、その年度で集められるお金で賄うことになります。ただし、繰越費用などは例外として認められています。
予算の事前議決の原則とは、予算は年度が始まる前に決め、年度が開始したと同時にその効力が生じるという原則です。予算が成立する見込みがない場合は、暫定予算の措置が取られます。
予算編成とは、翌年度の予算の計画をまとめることです。自治体の予算は、国の方針を元に計画が立てられます。
具体的には、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2022」に沿った形で、自治体は令和5年度の予算を編成しています。
先ほど、国が提示した方針に合わせて自治体が予算編成するとご説明しました。それぞれの自治体は、どのような考え方で予算を作成していくのか、どの部分に注力していくのかを「予算編成の基本方針」として掲げています。
予算編成の基本方針を知ることで、その自治体の特色を知ることができるでしょう。
各自治体がホームページなどで、予算編成の基本方針を公開しています。ここでは、3つの自治体の実例をご紹介します。
2.2.1. 神奈川県川崎市の予算編成基本方針
令和5年度の川崎市では、次の2つの考え方に基づいて予算編成を進めています。
第3期実施計画は、「生命を守り生き生きと暮らすことができるまちづくり」や「子どもを安心して育てることのできるふるさとづくり」などを含めた5つが基本政策です。
予算編成に際しての留意点としては、主要施策の効果的な推進や財源の確保に向けた取り組みを推進していくことが提示されています。
2.2.2. 新潟県新潟市の予算編成基本方針
新潟市の予算編成基本方針では、新型コロナウイルス感染症対策に取り組みつつ、1日も早く平穏な日常を取り戻すことが提示されています。かつ、明るく活力のある未来を実現するために予算編成をおこなうのが基本方針です。
「儲かる農業」の実現に取り組むなど、農業が盛んな新潟市ならではの方針があります。また、「妊娠・出産・子育てにおける経済的負担、精神的負担の軽減」など、国の掲げる方針に沿った方針も示されています。
2.2.3. 京都府福知山市の予算編成基本方針
福知山市は「まちづくり構想 福知山」という指針を提示しています。
これは「市民が幸せを生きるための将来像」を実現するための中核的な方針で、令和4年度に定められたものです。「まちづくり構想 福知山」の実現を目指しつつ、国の方針に沿って「物価高騰への効果的な対策」についても取り組むことが示されています。
自治体の予算編成のスケジュールは、以下のような流れです。
それぞれについて解説します。
翌年度の予算編成に関しては9〜11月頃からスタートします。初めに各市町村の予算編成の基本方針が決まり、その内容を元に各部局ごとの基本方針を決定するという流れです。
予算編成方針にしたがって、各部局内で予算の見積もりが取られ、予算要求として提出します。
その後、 提出した予算は財務課によって査定がおこなわれます。財政課の査定後に市長が確認し、認められれば予算の公表です。ただし、一度財政課にて否決された案件でも、市長により認められることがあるのです。これを復活要求といいます。
2月になると市町村長によって予算案が公表され、決議されます。基本的に公表された予算案が否決されることはなく、2月には予算がおおかた決まっている状態です。
当初予定していなかった支出が発生した場合、基本的に対応する手段は「補正予算」です。法改正等に伴う制度の見直しに対応するためや、災害などの緊急を要するものなどが補正理由として挙げられます。
また、それ以外に「流用」という予算執行の手段があります。流用とは、ある経費の支出科目から、その予算をほかの支出科目の増額に充当することです。流用に関しては以下の規定があります。
歳出予算の経費の金額は、各款の間又は各項の間において相互にこれを流用することができない。ただし、歳出予算の各項の経費の金額は、予算の執行上必要がある場合に限り、予算の定めるところにより、これを流用することができる。
引用:地方自治法第二百二十条2
流用は議決を受ける必要がありません。補正予算を編成せずに、例外的に予算を付け替えることができるのが特徴です。
ここからは、予算要求から成立するまでの流れについて解説します。
予算の編成方針が決まり次第、自治体の各部局では概算予算を作成していきます。予算要求とは、各部局で必要な予算を要求することです。財務課と市町村長の査定があり、予算として計上されれば翌年度その分の予算を使うことができます。
予算要求に至るまでの流れを詳しくご説明します。
まず、各市町村の「予算編成方針」という基本的な考え方を元に、各部局でそれぞれの事業に必要な予算を見積もって、概算予算を決定します。
次に各部局の予算要求を受けて、財政課では査定がおこなわれるという流れです。財政課の査定をクリアすると財務部長による確認があり、その後市町村長の確認を経て、予算案が決定します。
ただし、財政課の査定や財務部長の査定にて計上される予算要求もあれば、ゼロ査定といって計上されない場合もあります。否決された予算要求に関しては各課にて再度復活要求することも可能です。
このように、予算要求・査定・復活要求という流れで自治体における予算が精査されていきます。
市町村長によって公表された予算案は一般的に3月に開かれる市町村議会に提出され、議会内で審議されます。
住民が選挙にて選出した議員が審議をおこない、決議されると予算の成立です。成立した予算は当初予算として4月には自治体のホームページにて掲載され、誰でも確認することができます。
続いて、自治体における予算編成の考え方と財政マネジメントについて解説します。
各自治体において、どの事業にどれだけの予算を分配するかは優先順位を決めています。限られた財源の中で効率的な予算配分をおこない、適正な予算編成に導きます。
この適正な予算編成のために、財務課による査定がおこなわれるのです。財務課による査定には「一件査定方式」と「枠配分査定方式」の2種類があります。それぞれについて説明します。
4.2.1 一件査定方式
一件査定方式とは、各部局の担当者が一つずつの取り組みに対して予算要求をおこなう方式です。その後ヒアリングなどの審査を受けて、予算が計上されるか否決されるかが決まります。
一つひとつの事業を財務課が査定していくので時間がかかりますが、その都度予算編成方針に基づいているかどうかを確認することができます。
4.2.2 枠配分方式
枠配分方式とは、財務課が課ごとに予算の枠を決めて、担当者がその枠の中で予算を決める方式です。
一件査定方式よりも担当者に裁量があります。それゆえ、現場の声を予算に反映しやすいともいえるでしょう。
近年は財務課の負担軽減を考慮して、枠配分方式を取り入れている自治体も増えてきています。
限られた歳入の中で予算を獲得するためには、自治体における予算査定の着眼点を知っておく必要があります。
まず、義務的経費かどうかを第一に考える必要があるでしょう。義務的経費とは、人件費・扶助費・公債費など、その支出が法令などで定められている経費を指します。
次の着眼点としては、予算編成方針に沿っているかどうかです。例えば、自治体が少子化対策を方針として掲げられているのであれば、優先して検討すべき項目になります。
また、前述のとおり予算は住民の大切な税金を財源としていますので、予算編成の考え方としては住民の要望が多いのかどうかも考慮しましょう。
これまで、予算の考え方や編成の流れについて解説していきました。ここからは自治体の予算の具体例として、年間の広報・PR計画を作成し、予算を立てる際のポイントについて解説します。
広報部門において、まず最初におこなうのは年間の広報・PR計画の作成です。その際、現状の自治体が抱える課題や、強みを洗い出します。
次に、子育て世代・就職活動をしている方・観光客・移住希望者といったそれぞれのターゲットに向けて、どのような内容を伝えたいのかを精査します。どれだけのアクセス数を獲得して興味関心をひいたかや、定期的な情報発信の仕組みを作るなど、目標設定も必要です。
続いて、紙媒体・ホームページ・SNSでの発信、旅雑誌や旅行番組への露出、あるいはWeb広告など、目標やターゲットに合わせた手段を決めましょう。これらがすべて決まったら配信スケジュールや、イベントとの兼ね合いにより年間の計画を立てます。
年間の計画を立てたら予算を作成します。既存の企画・イベントや、周知したい情報などを洗い出しましょう。そして、これまで支払ってきた媒体費用を見直します。
効果が出ているのか、目的は達成できているのかを検証し、もし乖離がある場合は他の業者や媒体などの検討が必要です。ほかの業者や媒体の見積もりも踏まえて概算予算を決定し、予算要求へと進みます。
予算が成立したら、計画通りにプランを実行します。実行した後に、効果測定と検証ができるようにしましょう。
離が挙げられます。つまり、住民が欲しい情報を自治体は提供できていないということを意味します。この課題に対しては、アンケートを実施するなどで住民のニーズを知ることが大切でしょう。
また、実施したPRの効果測定と見直し・改善がうまくできていないという課題も考えられます。これらの課題をクリアして、自治体が広報・PRを活用し効果を得るためには、以下のような取り組みをおこなう必要があります。
しかし、限られた予算の中ですべて完璧に取り組むのは難しいかもしれません。
そこで、特に自治体のWeb広告運用を担っているご担当者は、自治体に特化した広告配信プラットホームの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
「まちあげ」は課題を抱える自治体のWebプロモーションのための広告配信プラットフォームです。その特徴についてご説明します。
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この記事では、自治体の予算を作成する目的・予算の種類と原則・予算編成のスケジュールなどについて解説しました。具体例として、広報・PRの予算の立て方や課題についての説明もおこないました。
また、記事の最後に、ターゲットにあわせた広告配信ができる、費用対効果が高いマーケティングプロダクト「まちあげ」をご紹介しました。限られた予算内で自治体Webプロモーションに取り組むご担当者は、「まちあげ」の活用をご検討ください。