自治体向け:観光業における人流データの活用とその利点

近年、EBPM(データに基づく施策立案)が求められる中、注目を集めているデータの一つに人流分析が挙げられます。
各都道府県でも導入を行っている自治体様が増えてきており、トレンドとしては押さえておきたい人流分析ですが、実際の活用方法がわからないという方も多いのではないでしょうか。
 
本記事では、観光業における人流データの活用と利点についてご紹介いたします。

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  1.  人流分析とは
     1.1 人流データの取得方法
     1.2 人流分析データから得られるインサイト

  2.  人流分析を活用するメリットと注意点
     2.1 人流分析活用のメリット
     2.2 人流分析活用時の注意点
     2.3 人流分析活用における抑えるべきポイント

  3.  観光業における人流データ活用の具体例
     3.1 横浜市みなとみらい地区の活性化
     3.2 静岡県藤枝市の過疎地域活性化
     3.3 東北観光推進機構の広域観光戦略
     3.4 横浜中華街の観光客分析と街づくり計画
     3.5 栃木県のコロナ禍からの観光業回復
     3.6 淡路島の訪日外国人観光客誘致

  4.   人流データ分析市場の今後の展望

  5.  データドリブンな観光戦略の時代へ

 

 

1. 人流分析とは

 

人流分析とは、人々の移動や滞在に関するデータを収集・分析し、その動向や傾向を可視化する手法です。観光業において人流分析は、より効果的な戦略立案や意思決定を可能にする強力なツールとして注目されています。

1.1 人流データの取得方法



近年、スマートフォンの普及やGPS技術の発展により、高精度な位置情報データの取得が可能になりました。これにより、観光地や施設における来訪者の動向を詳細に把握することができるようになりました。人流分析では、主に以下のようなデータを活用します。

人流分析において活用するデータ
・位置情報データ(GPSデータ)
・携帯電話の基地局データ
・Wi-Fiアクセスポイントのログデータ
・交通ICカードの利用データ
・SNSの位置情報付き投稿データ


1.2 人流分析データから得られるインサイト



これらのデータを分析することで、観光業界では以下のようなインサイトを得ることができます。
 
・来訪者数の把握:特定の観光地や施設への来訪者数を正確に計測し、時間帯別や曜日別の傾向を把握できます。

・観光客の属性分析:年齢、性別、居住地域などの属性情報を分析し、ターゲット層を明確化できます。

・滞在時間の分析:各スポットでの滞在時間を測定し、人気の度合いや施設の改善点を見出すことができます。

・周遊パターンの把握:観光客の移動ルートや立ち寄り先を分析し、効果的な観光ルートの提案や新たな観光スポットの開発に活用できます。

・季節変動の分析:季節や天候による来訪者数の変動を把握し、それに応じたプロモーションや施設運営の最適化が可能になります。

・マーケティング効果の測定:人流データを活用することで、観光キャンペーンやイベントの効果を客観的に測定することができます。これにより、投資対効果(ROI)の高いマーケティング戦略の立案が可能になります。

人流分析データから得られるインサイト

2. 人流分析を活用するメリットと注意点

 

 

2.1 人流分析活用のメリット



観光業界において人流分析を活用することで、以下のような利点が得られます。
 
・効果的なマーケティング:ターゲット層に合わせた的確なプロモーションが可能になります。

・施設運営の最適化:来訪者の動向に合わせたスタッフ配置や設備の整備ができます。

・新たな観光資源の発見:これまで見過ごされていた潜在的な観光スポットを発見できる可能性があります。

・観光客の満足度向上:混雑緩和や効率的な周遊ルートの提案により、観光体験の質を向上させることができます。

・地域経済の活性化:観光客の流れを最適化することで、地域全体の経済効果を高めることができます。


2.2 人流分析活用時の注意点



多くの利点がある人流分析ですが、いくつかの注意点があります。

 

・プライバシーへの配慮:個人を特定できないよう、適切な匿名化処理を行う必要があります。


・データの精度:GPS信号の誤差や基地局の位置など、データの精度に影響を与える要因を考慮する必要があります。


・サンプルの偏り:データ収集の方法によっては、特定の年齢層や利用者に偏りが生じる可能性があります。


・解釈の注意:データだけでなく、現地の状況や他の要因も考慮して総合的に判断することが重要です。



2.3 人流分析活用における抑えるべきポイント



人流分析は、観光業界に革新をもたらす強力なツールです。しかし、その活用には慎重さと倫理的な配慮が不可欠です。プライバシーの保護や適切なデータの取り扱いに十分注意を払いながら、観光地の魅力向上や観光客の満足度増大に向けて、人流分析を効果的に活用していくことが重要です。今後、テクノロジーの進化とともに、人流分析はさらに精緻化され、観光業界の発展に大きく貢献していくことでしょう。

 

観光業における人流分析は、近年急速に注目を集めているテクノロジーです。スマートフォンの普及やGPS技術の発達により、観光客の動向をリアルタイムで把握することが可能になりました。この革新的なデータ分析手法は、観光地の活性化や観光客の満足度向上に大きく貢献しています。

 

 

3. 観光業における人流データ活用の具体例

 

実際に、多くの観光地や自治体が人流データを活用して観光振興に取り組んでいます。以下にいくつかの事例を紹介します。
 

3.1 横浜市みなとみらい地区の活性化



神奈川大学、Avintonジャパン、横浜観光コンベンション・ビューローの3者は、みなとみらい地区の活性化のために人流データを活用しました。観光客の移動方法や滞在時間などの周遊データを分析した結果、横浜駅からの移動が多いことが判明。この結果を基に、観光客の移動手段について研究を進め、効果的なモビリティ・ソリューションの開発につなげています。


参照元:株式会社ゼンリンデータコム


3.2 静岡県藤枝市の過疎地域活性化



静岡県藤枝市では、人流データ分析を用いて過疎地域の可視化に取り組みました。蓮華寺池公園には多くの観光客が訪れるものの、隣接する藤枝地区まで立ち寄る人が少ないという課題がありました。IoTセンサーを使って複数箇所で来園者数や混雑状況を測定し、周辺地域の人流の偏りを明らかにしました。現在は、この分析結果を基に蓮華寺池公園の混雑状況を手軽に確認できるシステムを構築中です。

参照元:LocationMind株式会社

 

3.3 東北観光推進機構の広域観光戦略



東北6県と新潟県への観光客誘致に取り組む東北観光推進機構は、観光スポットの来訪者数や周遊傾向を把握するために人流データを活用しています。2021年度に構築した観光データ管理プラットフォームでは、人流データだけでなくSNSのアクセスや消費購買データも統合し、多角的な分析を可能にしました。この結果、数千箇所の観光スポットの来訪者属性や周遊状況を一目で把握できるようになり、効果的な観光施策の立案に役立てています。

参照元:株式会社Agoop

 

3.4 横浜中華街の観光客分析と街づくり計画



横浜中華街発展会協同組合は、2020年にクロスロケーションズの人流分析プラットフォームを導入しました。観光客のGPSデータを基に、通行量、滞在時間、訪問者の性別・年代情報などを収集・分析しています。これにより、コロナ禍前後や平日・休日といった状況別の観光客の行動パターンを把握し、より魅力的なサービスや施策の立案に活用しています。

参照元:クロスロケーションズ株式会社

 

3.5 栃木県のコロナ禍からの観光業回復



栃木県庁は、コロナ禍で減少した観光客数の実態調査や観光需要回復のための施策効果検証に「KDDI Location Analyzer」を導入しました。これにより、従来は年に一度しか行えなかった観光動態調査を、低コストでリアルタイムに実施できるようになりました。観光客の属性や宿泊先の傾向なども把握できるようになり、効果的な誘客戦略の立案に役立てています。

参照元:KDDI BUSINESS


3.6 淡路島の訪日外国人観光客誘致



淡路島観光協会観光戦略室は、訪日外国人の来訪データ取得のためにNTTの人流DXソリューションを導入しました。これにより、国籍別・季節別の訪日外国人旅行客数や、観光客の移動パターンなどを詳細に把握できるようになりました。これらのデータを基に、より効果的な観光プロモーションの立案に取り組んでいます。

参照元:NTT東日本


4. 人流データ分析市場の今後の展望

 

人流データ分析技術は日々進化しており、今後はさらに精度の高い分析や予測が可能になると期待されています。AI技術との融合により、より高度な観光客行動予測や、パーソナライズされた観光推薦システムの開発なども進むでしょう。例えば、過去のデータと天候予報を組み合わせて将来の来訪者数を予測したり、個々の観光客の嗜好に合わせたパーソナライズされた観光ルートを提案したりすることが可能になるでしょう。

 

また、プライバシー保護の観点から、個人を特定しない形でのデータ活用方法の研究も進んでいます。観光客の権利を守りつつ、有益なデータ活用を両立させる取り組みが重要になってくるでしょう。

 


5. データドリブンな観光戦略の時代へ

 

人流データの活用は、観光業界に革新的な変革をもたらしています。これまでの経験や勘に頼った運営から、客観的なデータに基づいた戦略立案が可能になることで、正確な来訪者数の把握、詳細な属性分析、周遊パターンの解明、季節変動の把握、マーケティング効果の測定、混雑状況のリアルタイム把握、インバウンド戦略の最適化、地域間連携の促進など、多岐にわたるメリットによって、より効果的で効率的な観光地経営が実現できます。
 
しかし、データの活用には適切な解釈と分析が不可欠です。単にデータを収集するだけでなく、それを意味のある洞察に変換し、実際のアクションにつなげる能力が求められます。また、プライバシーへの配慮も忘れてはいけません。
 
今後、AI技術の発展により、人流データの分析はさらに高度化すると予想されます。観光業界の関係者は、こうした技術の進化に常にアンテナを張り、積極的に新しい知見を取り入れていく姿勢が重要です。人流データを活用した観光戦略は、訪れる人々にとってより魅力的で、地域にとってより持続可能な観光の実現につながるでしょう。

人流データ分析は、観光業界に革命をもたらす強力なツールとして注目を集めています。本記事では、観光分野における人流データの活用事例と、その導入がもたらす多大な利点について詳しく解説してきました。
 
人流データの活用は、観光地の魅力向上と持続可能な観光業の発展に大きく貢献する可能性を秘めています。ぜひ、本記事で紹介したメリットを参考に、自らの観光戦略にどのように人流データを活用できるか、検討してみてはいかがでしょうか。